私たちは、京都市とその周縁である京北を繋ぐように活動し、流域全体をひとつの大きなフィールドとして捉えています。私たちの活動拠点(Our Spaces)、地域の知恵を培う実践者たち(Local Experts)、そして私たち自身が手がける教育プログラムやレジデンス、森づくりの取り組み(『工藝の森』)――それらすべてが、有機的に関係し合いながら、私たちの学びの場をかたちづくるエコシステムを形成しています。
パースペクティブにおける「クリティカル・メイキング」は、批評から始まるのではなく、感覚の再起動から始まります。素材に触れ、風景のなかに身を置き、身体を通して「つくること」と向き合うことで、他者や他の生命への共感が芽生えます。そうして開かれた感覚から、はじめて問いが立ち上がります。それは、私たちが生きている制度や価値、構造に対する問いです。手を動かすことは思考の営みであり、まず「感じること」から始めて、やがて「批評すること」へとつながる、そんな探究の方法だと私たちは考えています。
私たちのフィールドリサーチは、対象を外から眺めるものではなく、土地とともに学ぶ没入的なプロセスです。森や工房、川辺や街に足を運び、風景や素材、人々の声に耳を澄ませながら、エスノグラフィーや感覚的な手法を用いて、文化・生態・経済の流れや関係性を丁寧に描き出します。身体を通じたこのリサーチは、その土地に根ざした視点を育み、実感をともなう問いを生み出します。
「モノづくりは植えるところから始まり、また植えるという行為に還元されるべきもの」。
そんな「工藝の森」の理念をかたちにするための実験林が、京北の山中にあります。
これまでに200本以上の工藝素材(漆など)を植えながら、森の手入れや生態の観察、素材と環境の相互関係を、身体を通して学ぶ場として活用しています。
目の前に広がる森のかたちは、無数の生き物たちが互いに脅かし脅かされ、水が流れ、土が積もるという悠久の変化の一瞬にすぎません。
その儚さと力強さに触れるこの場所は、多くの探究者にインスピレーションを与えるフィールドとなっています。
京都という都市の文化を支えてきた森林資源の産地・京北。
Fab Village Keihoku(FVK)は、この地で“つくること”と環境との関係を見直すためのシェア工房です。
ファブラボの思想を背景に持ちながらも、FVKは単なるデジタル工作の場ではなく、地域に根ざした素材観と手仕事の知恵を大切にしています。
専門性のある木工職人による技術指導を受けることができ、若手のつくり手たちにも開かれた場所です。
少し離れた第2工房には、ヴァナキュラーな素材と向き合う、より自由な実験の余白も用意されています。
Studio Madoは、地域の記憶が蓄積された旧小学校の一室を転用した、リサーチと表現のためのスタジオです。レジデンスから徒歩圏内にあり、展示やワークショップ、地域の方とのイベントなど、多様な用途に活用されています。風景と記憶、感覚と語りが交差する場として、さまざまなリサーチプロジェクトの拠点にもなっています。
私たちのレジデンス「風」は、京北・山国のシンボル、天童山を仰ぐ築110年の古民家です。
すぐ近くを流れる大堰川には、初夏には無数のホタルが舞い、夏にはアユ釣りの人々が訪れる、自然豊かな環境にあります。
建物内には、畳の和室2室とカーペット敷きのベッドルーム1室、設備の整ったキッチン、離れにある浴室とトイレを備えています。
ワークスペースも整備されており、制作にも滞在にも適した住空間です。
敷地内には、木と漆によるサーフボードを制作する工房〈Siita〉や、二階建ての土蔵、広々とした庭もあり、思考と実践の往復にふさわしい場所となっています。
私たちは、伝統に根ざした実践を続ける職人や専門家との協働を通じて、分野横断的で唯一無二のネットワークを築いてきました。彼らが受け継いできた千年の知恵を、私たちは編集し、世界へと手渡そうとしているにすぎません。その根底にあるのは、彼らとの深い信頼関係。これは私たちにとって何よりの財産です。この大切な信頼は、本当の意味での仲間にだけ、丁寧にシェアしていきたいと考えています。